見えるはずがないもの






「姉さん」
「何」




 平日の夕方、珍しく恭弥が懐いてきた。
 夕飯の準備してたんじゃないの、と突っ込みそうになったのは私のお腹がすいているからである。
 恭弥さんはソファに座っている私を後ろからギュッと抱きしめている。ちょっと首が締まって苦しい。
 このままでは読めないので本を閉じた。



「姉さんはいなくならないよね」



 少しの沈黙の後、呟かれた言葉。




「恭弥が私をいらないと思う日までは、大丈夫よ」



 もちろん嘘八百。私にわかるはずがない。私がこの世界からいなくなる日なんて。
 恭弥の腕の力が弱まった。
 安心してくれたようだ。
 息苦しさから解放されて、小さく息を吸う。左手に本を持ち、新しい酸素を取り込みながらそっと恭弥の腕に触れた。
 また腕の力が強くなる。さっきよりは弱いけれど。



「なら大丈夫だね」



 どこか悪戯っ子のような口調で恭弥は続ける。



「僕が姉さんをいらないと思う日なんて、来ないから」



 しんみりとした空気だったのは気のせいか。そう思わせるほどに恭弥は楽しそうだ。
 返事をせずにボーっとしていると電子音が聞こえた。キッチンのアラームだ。



「今日はシチューだよ」



 耳元がくすぐったい。
 私に料理名を伝えると恭弥はキッチンへ走って行った。スリッパを履いているからパタパタ……という効果音付きだ。ちょっと微笑ましい。





 それにしても、”姉さんはいなくならないよね”、か。
 適当な返事をしたけれど本当に分からない。
 なるようにしかならない、というのが現状なんだけど。
 このまま暮らしてても大丈夫な気がする。今のところ。
 少なくとも私はそう思っているし、恭弥にも必要とされているらしいし。
 幼いころから両親が一日家にいるなんてことが少なかったから私にべったりなのかもしれない。
 姉として慕ってくれるのは非常に嬉しい。
 私も恭弥が家族で良かったと思っているから。



「姉さん、ご飯だよ」
「うん」



 とりあえず、今は恭弥の作ってくれたシチューを食べよう。





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もしかして私ご飯ネタ好きなのかな?
うん、たぶん好きです。

2008.10.05

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