この世界に生まれて十数年。 そして前に居た世界が”緋色の欠片”という乙女ゲームだと知ったのは小学六年生の時。 秋という季節を何度か繰り返した後、この世界に私は生まれた。繰り返される秋の中、もう人を好きにならないと何度思ったことだろう。誓っても誓ってもいつの間にか私はひとを好きになっていた。これは乙女ゲームだったからなのか、私には分からない。 ただ、ひとつ言えること。私は恋することに疲れた、それだけだった。 幸いこの世界は平和で、危険があるといっても私が本来生活していた世界よりちょっとこの町には不良が多いかな?くらい。 雲雀家の娘として、雲雀恭弥の双子の姉として私はそれはもう普通に暮らしていた。 まあ、ちょっとひきこもり気味でちょっと乙女ゲーマーでちょっとオタクに育った私は普通とは言えないかもしれないけど、”玉依姫”という責任を背負うこともなく命の危険に晒されることもなく。 毎日を楽しく過ごしていた。恭弥と二人暮らしで(両親は海外でバリバリ働いている)。 洗濯物は私がしてるけれど基本他の家事は大抵恭弥がしてくれる。掃除は主に二人で。 私は料理があまり好きじゃないから仕方ない。恭弥は面倒見がいいのだ。 双子の弟、雲雀恭弥。私の目の前では面倒見が良くて生意気な弟。その実態は素敵で無敵な(言ったら怒られそう)並盛中の風紀委員長様だ。 裏社会も牛耳っちゃってるらしい。トンファーを振り回すのは知ってたけど、我が弟ながら末恐ろしい。 たまーに学校に行くと誰も近づいて来ないと思ったよ。(最近まで気付かなかった) まあそんなわけで、けっこう危険と隣り合わせっぽい。 恭弥は何も言わないから別に良いんだけどね。 笑顔で始まり笑顔で終わる そろそろ学校に行かないと出席率が危ないなぁ。ということで今日はきちんと登校してみた。 ラッキーなことに短縮授業で部活も入っていない私は放課後というには早い時間に帰宅することができた。 家に居ても暇なので(ときメモGS3はクリアした!)、近所の本屋に出かけることにする。制服から私服に着替えて。制服のままふらふらしてたら恭弥がうるさいからねー。 本屋までの道のりをゆっくり時間をかけて歩く。散歩は好きな方だ。景色を見てのんびりするのが幸せ。 いつものようにぼーっと公園の歩道を歩いていると、ドンッと何かにぶつかった。 ぐらついた身体を気合いで立て直す。右方向でべしゃ、という音が聞こえた。 慌てて視線を向けると案の定男の人が倒れていた。いや、転んでいたという方が正しいか。見事なこけっぷりだ。 陽の光でキラキラ輝いている金髪が眩しい。 一瞬見入りそうになった。それどころじゃないと自分を叱咤して私はその場にしゃがんだ。 「大丈夫ですか!?」 ずべーっとスライディングしたみたいな体制のままくぐもった声で男性が喋った。 「だいじょうぶだ……」 ゆっくりと起き上がる相手に合わせて私も立ち上がる。 転んだ男性は顔を擦り剥いていて、痛そうだ。美形を傷ものにしてしまった。しかも外国の人。 男性には近くのベンチに座ってもらい、私は水道を探してハンカチを濡らした。 大丈夫だと男性は主張していたが(驚いたことに流暢な日本語だった)小さく「いてて……」と呟いたのを私は見逃さなかったし、ぼーっと歩いていた責任もあるので最低限の手当てはする。 濡らしてきたハンカチで男性の頬や顎にできた傷にそっと触れる。するとやっぱり痛かったみたいで、男性は顔を歪めた。ほら見ろ。 「すみません、私がぼーっと歩いてたので」 「いや、俺からぶつかったんだ。急いでたからな。それにしてもお嬢さんにはかっこ悪いところを見られちまったなー!」 にへら、と笑う男性に和みながら絆創膏をぺたっと貼った。これで応急処置は終わり! 私はよく何もないところで躓いて転んだりするから恭弥に絆創膏を持たされてたんだよね。よかったよかった。 「これで終わりです。応急処置なんで、後でちゃんと消毒してくださいね」 「ああ、ありがとう。このハンカチは洗って返すな」 「別にいいですよ! じゃ、私はこれで……」 「あ、ちょっと待ってくれ!」 美形は目の保養だけどあまりお知り合いになるのは嬉しくない。 さっさと本屋へ向かおうと金髪美形の男性に背を向け、歩き出す。 「せめて名前教えてくれよ! 俺はディーノ!!」 背後から名前を名乗られてしまった。名乗られたら名乗り返すのが礼儀。仕方ないのでちらっと振り向き名前だけ言って、また前を向いて歩く。今度は早めに。 「雲雀です。ではディーノさんお大事に!」 ディーノという金髪美形がまだ何か言ったような気がしたけど、気のせいだということにした。 美形は遠くから眺めるのが一番良いよ。うん。 私は変な自論に納得しながら意識を本屋へと切り替えた。 ********** 数週間後、ディーノとやらと再開した。恭弥の家庭教師をしているらしい。 まだ恭弥が帰ってないから確認は出来てないけれど、この気の抜ける笑顔の人が嘘を付いているとも思えない。 一応恭弥の先生ということで家に上がってもらってお茶を出す。するとグーッと音がした。 照れた表情で「いやあ、腹減ったな〜」と言うディーノさんに面倒くさいが簡単なオムライスを作って出した。 一応お箸慣れてないだろうという配慮もしてスプーン付きだ。 「悪いな、ハンカチ返しに来ただけなのに」 「気にしないで下さい。恭弥がお世話になってるみたいなので。それより冷めない内に食べて下さいね」 「ああ、いただきます」 「はいどうぞ」 条件反射で「はいどうぞ」なんて言ってしまった。ディーノさんはへらっと微笑んで、スプーンを手に取り食べ始めた。 一口食べて「美味しい」と言われ、ちょっと嬉しかった。 それからはもぐもぐと勢いよく食べていくディーノさん。 美味しそうに食べてくれるのは本当に嬉しい。嬉しいが、ディーノさんの食べ方が汚い。ぼろぼろとスプーンからこぼれていくのだ。 まるで小さい子供みたいで、思わず笑ってしまった。 「ただいま。……誰か来てるの」 ディーノさんと笑い合ってるところに恭弥が帰宅した。 「「おかえり」」 恭弥がリビングに入ったときに二人の声が被った。それでまた笑いが込み上げてくる。 私が笑う度に機嫌が降下していく恭弥を宥めるのは数十分後のお話。 ================================== 途中でディーノさん視点書こうとしましたが、いまいち口調が分からないのでやめました。 また単行本読み返してから書くかもしれません。 次はツナとの絡みが書きたいです。この前も言ってたような気がする。 2008.09.02 back/next home |