やべ、キュンときた 最近この町に越してきた。母方の祖母が亡くなって、自営業の私がその家を継いだのだ。 結構な田舎なのだが……まあ元々住んでいた所も田舎だったので特に問題はない。 ひとつ挙げるとすると――キツネが遊びにやって来る。 驚くなかれ。いや、驚け。このキツネ、ただのキツネではない。 喋るのだ。もうお前口の作りどうなってんの?ってくらいに喋る。 この町の神社には天狗様がいるらしく、キツネはそこで修行しているらしい。他にもタヌキやらウサギやらイノシシがいるとか。 この日本語ペラペラなキツネと知り合ったのは越してきて二ヶ月ほど経った頃、家の縁側で日向ぼっこしていたのが切っ掛けだった。 心地良い日差しについ座ったまま眠ってしまっていた。 眠りから覚めた後も夢心地で。しかし、なぜか膝の上が温かい。 ボーッとしたまま手を伸ばすとモサッ。 ……モサ? 実家で犬を飼っていた癖でそのまま撫でてみる。愛犬が懐かしい。 眠気まなこでその犬っぽい物体を見る。眼鏡がないからよく分からないが、犬っぽい。 なぜここに犬(仮)がいるのだろう。まあ噛まないからいいかな。 しばらく背の部分を撫でて、手を頭に移す。三角の帽子っぽいのが紐で結ばれていたので少しずらした。 モフモフと頭、耳、頬、面、顎と撫でる場所を変えていく。また頭に戻し、長い間撫でていた。犬も気持ち良いのか目を細め寛いでいる。 しかし人懐っこい犬だなあ。どっかで飼われているのかな。首輪じゃなくて頭に印があったけど。ここではそれが流行っているとか? うーん、と撫でる手を止め考える。 「なんだ、もう終わりか」 ん? 今膝から声がしたけど気のせいか。 「もっと撫でてくれんか。お前のが今までで一番気持ち良い」 今度ははっきりと聞こえた。 近くにある眼鏡をかけ、犬を見る。犬も顔を上げて私を見ていた。 ってか犬じゃなくてキツネっぽいような。まあ今はどうでもいい。 それよりも―― 「私いつから動物の声分かるようになったっけ」 「お前じゃのうてワシが話せるんじゃ」 「はぁ」 夢じゃなかろうか。 とりあえずご所望のナデナデをしておく。 気持ち良さそうに目を細める姿は実家の犬にそっくりなんだけど。 「君、犬?」 「ワシは三郎坊。キツネだな。キツネ以外の何に見えるんや」 「犬かと」 間違えていたのを誤魔化すように両手でわしわし撫でる。 「撫でてもらえるんやったら犬でもええな」 「ふうん」 ナデナデ……ナデナデ…… しばらく無言で撫でまくっていたが、流石に疲れた。というかお腹空いた。昨日の夕飯のカレーがちょうど食べ頃なはず。 「じゃ、三郎さん。私ご飯食べるから」 「三郎坊じゃ。わしも腹減ったのー」 いや、腹減ったって言われてもカレーしかない。無理だろ。 「い……キツネだから食べられないでしょ」 「今、犬って言おうとしただろう。ん、ならこれで問題ないか?」 ――ポンッ! 「…………ドチラサマデスカー」 「わしだ」 目の前の誰かさんはお面を外した。 わしって、今流行りのワシワシ詐欺ですか。ってワシワシ詐欺って何やねん、それ言うたらオレオレ詐欺やないかい! って、一人漫才してしまうくらいに驚いた。だってキツネが人に変身(変化か?)したんだぜ?しかもお面外したらイケメンとか……。 信じられるかジョー、立つんだジョー。 「んー? どうした?」 首を捻りながら近付いてくるイケメン。 「って、顔近い近い!」 「すまんの、人の目は難しくてな」 人のって、やっぱりキツネか。 百歩譲って三郎さんだとしよう。あ、もう考えるのめんどくさい。この糸目も三郎さん。あとキツネも三郎さん。それでいいや。 「カレー、食べる?」 「頂くとしよう」 三郎さんと和やかにカレーを食べましたっと。 普通の人間みたいでびっくりする。 「お、もうこんな時間か。馳走になったなあ、美味かった」 「お粗末様でした」 三郎さんは席を立ち、縁側に出る。私も見送りくらいはと、後について行く。 「この礼は必ず」 「いやいや、喋るキツネとイケメンで十分っすから」 むしらキツネのお礼が 想像出来なくて怖い。 「では」 三郎さんはキツネに戻って歩き始めた。 私は台所に戻ろうと背を向けた。 その時。 「忘れた」 耳元に三郎さんの声が。背にはぬくもりが、腹には腕が回されている。 「わしばっかりでは悪いからなあ」 ナデナデ……ナデナデ…… 「また撫でてもらいにくるでな」 一瞬でぬくもりは消え、振り替えると姿も見えなかった。 おい、最後のは何だよこの野郎。 「思わずキュンとしたじゃないか……」 キツネに顔赤くされたとか、ありえない。 以降、たびたびやってくる三郎さんにキュンとされるのはお約束。 ――もちろんキツネでない方の、ね。 2010.8.5 home |