「初めまして、私は魔女です」



 と、遇ったばかりの彼女は言った。






三流魔法使いの一流魔法





 オレがまだ小さい時、一人の手品師に会った。
 その手品師の手品は素人の、それも子供のオレが見てもヘタクソで。
 しかしオレ相手に一生懸命喜ばそうと下手な手品を次々と見せる姿は、子供のオレがにも伝わる何かがあった。

 その手品師に遇ったとき、彼女は一番に自分の事を魔女と言った。
 しかし、魔女であるはずが無い。
 そんな者が存在するなんてオレは信じていなかった。



「初めまして、私は魔女です」
「……馬鹿じゃねえの」



 オレが子供だと思って油断したのか、それともオレが魔法を信じていたと思ったのか。
 魔女と名乗った手品師は、悔しそうに顔を歪めた。



「くっ。僕、ココは『えーそうなんだぁ。魔法見せてー!!』とか言って信じるところよ! もう一度やり直しねっ。良い?」



 さあさ、もう一度あそこから歩いてきて!
 オレは何故か言われたとおりにした。
 大人に逆らおうとは思っていなかったからかもしれない。



「初めまして、私は魔女です」
「えーそうなんだぁ。魔法見せてー(棒読み)」
「(棒読みね)えぇ、良いわよ」



 それからヘタクソな手品を延々と見せられた。
 最初はその一生懸命さに惹かれ、見ていたけど。
 もういい加減飽きてきた。


「ねぇ、お姉さん。もう手品はいいよ。……お姉さん手品下手だね」
「あははー。これは手品じゃなくて、魔法だよー。お姉さんまだ下っ端の魔女だから下手なのよ」
「魔法なんて存在しないよ」
「これは魔法なの!」


 どっちが子供なのか分からなくなってきた。
 大体、恥ずかしくないのだろうか。
 大人なのにこんな事して。



「本当に魔女だとしたら、かなりの三流魔法使いだね」



 子供の時のオレは、毒舌だった。



「ほっといてよ……」


 脱力感溢るるお姉さん。



「オレ、もう帰る」
「あっ。ちょっと待って! ここで帰られちゃ魔女の名が廃る。今からとーっておきの魔法見せてあげるからねっ!」


 とっておきの魔法って何だよ。
 どんなに無関心でもオレはやっぱり子供だった。
 気になって仕方が無い。



「レディースエーンドジェントルメーン。今からー君の背中にある物が生えますー。それはー君の才能。勇気。君のこれからの可能性が詰まっています。信じるかどうかは君しだい。では、いきまーす――」


 そう言って、お姉さんはオレの背中に両手を置いた。
 その手はとても温かくて、優しかった。



「1・2・3・!」




 瞬間、眩い光がオレの背中から溢れ出た。
 何事かと振り返ると、そこには――――お姉さんが手を退けたそこには。



 真っ白な、七色に光を放つ、大きな翼が生えていた。



「コレは君の可能性。どうだっ! これはスッゴイ魔法なんだよー。私、この魔法を一生懸命に勉強してたから他の魔法が下手なんだからね! 私はれっきとした魔女なの!」


 
 しばらくして、翼は光とともに消えた。
 辺りを見れば、いつの間にか陽も落ちていて、薄暗い。


「あ。オレ、帰らなきゃ」
「そっか。付き合ってくれてありがとー。ばいばい、僕」
「綾織真」


 はい?と聞くお姉さんに、オレは名前。と呟いた。


「真君ね。うん。良い名前だ」
「お姉さんの名前は?」
「私? 私はねー……
「バリバリ日本名」
「だって日本人だもんー」


 オレは、何故か寂しそうに笑うお姉さんにこう聞いた。
 何で自分がそんな事聞いたのか、この時は分からなかったけど。
 今なら分かる。


「お姉さん、明日もここに居る?」


 寂しかったからだ。


「えーっと……残念だけど、もうこっちには来れないんだな」
「いつ来れるの?」


 そうだね、いつ来れるだろうね。
 言葉を濁すお姉さん。
 いつもなら、もうココで聞くのは止めるけど。
 お姉さんとは、また絶対に会いたかったから。


「そうだ。真君が、何かでトップになったらまた会いに来る」
「何かって?」
「どんな分野でも良いから、真君がトップになったら」
「わかった! 絶対に一番になるっ。だから、会いに来てよ」


 もちろんっ。
 そう言って、お姉さんは笑った。
 今までずっと笑ってたけど、この笑みが一番綺麗だった。


「じゃぁ、バイバイ」
「うん。またね、お姉さん」



 オレは帰り道を歩き始めた。
 でも、やっぱりもう一度お姉さんを見て置きたくて振り返ったけど。
 お姉さんの姿はもう、見えなかった。
 ここは広くて一本道なのに。

 やっぱり、お姉さんは魔女だったのかな。



      *





 今、オレは芸能界で活躍している。
 ピーコックNo.1のアイドルだそうだ。
 これでも、トップと呼ばれている位置に居る。

 でも、やっぱりまだまだ上には上が居るわけで。

 ある雑誌で、こんな質問があった。

『どうやって、ココまで上り詰めたんですか?』

 お姉さんとの約束だから。

『どうして、芸能界で頑張ろうと思ったんですか?』

 お姉さんの魔法で翼を見て、コレが浮かんだから。


 正直には答えなかったけど、何でも『お姉さんが』と頭の中に浮かんだ。
 まだお姉さんには会っていない。
 もしかしたら、忘れてるかもしれない。

 でも、それはトップになってみなければ分からないと思う。

 だからオレは今日も仕事を頑張ろうと思う。







なので綾織が俳優になった理由が違ったり。
でも、こんな理由があってもいいかな、と思ってそのまま掲載します。


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