いつも先輩は笑っている。
 照れくさそうで、幸せそうで。そして悲しそうに、辛そうに。
 俺の視界には始終笑顔が絶えることない先輩がいた。


「あの人は、どうしてあんな笑い方をするのだろう」


 こっそり先輩を見ては、答えの出ない問題に頭を悩ませる。
 延々とループさせるしかない。
 どうせ答えなんか出るわけないのだ
 でも俺は思う。


「辛いなら、無理に笑ってほしくない。顔に浮かべるのは幸福だけでいい」


 終わりのない想いの果てに存在するのはこの願いだけ。
 しかし、それを言葉にするのは難しい。ただの押し付け。





たった一つの言葉






「阿部君、その怪我……。もしかしてまた元希が……?」
「先輩のせいじゃありません」


 もう恒例となった練習のあとの会話。
 榛名さんのボールは速くて鋭いが、まだ荒い。
 捕れない球は身体中に痣を残し、捕れた球は俺の腕に重く圧し掛かる。
 荒い投球は今の俺とってまさしく試練。
 乗り越えられれば大きな自信となって自分に返ってくるだろう。

 慣れないいつも先輩は困った風に笑った。その微笑は、儚くて、すぐに消えてしまいそうなくらい小さなものだったけど。
 この人は、元希さんの彼女だ。そして、オレの好きな人。

 先輩は優しくて、少しおっちょこちょいだ。だから、目が離せない。いや、離したくないのかもしれない。
 先輩は綺麗だ。特に、笑顔が。


「阿部君は優しいね」


 先輩の声が好きだ。
 女の人独特の声の高さで、だけど高すぎない落ち着いたアルト。この声を聞くたびに、何故か胸が締め付けられる。

 好きで好きでたまらない人。オレの初恋の人。笑った顔が好きだ。綺麗な落ち着いた声が好きだ。全部、全部、先輩の全てが好きなんだ。
 でも、先輩はあの元希さんの彼女。


「先輩は……どうして元希さんと付き合ってるんスか」


 おもわず、疑問に思っていた事が口から出る。こんな事、聞いても虚しくなるだけなのに。だけど、聞きたい気持ちも確かにあった。
 先輩は、数秒間考えるような仕草をして、真っ直ぐにオレを見て答えた。


「そうだね、なんでだろう」


 いかにも、ふざけた様な答え方だ。だけど、先輩は冗談なんか言ったりしない。本当に分からないのか?オレはそう思いながらももう一度、分かり易いように言う。


「じゃぁ、先輩は元希さんの事、好きじゃないんですか?」
「好きだよ」
「だから、付き合ってるんでしょう?」


 怒った口調になってしまう。好きだとは答えられるのに、何で付き合ってるかには答えられないんだ。
 そんなオレを見て、驚く様子もなく。先輩は言葉を紡いだ。


「そうね。でも、好きだから付き合ってるんじゃないよ」


 先輩は、ふ、と目を空に向けた。


「元希に傍にいろって言われたからかもしれない。あたしがいたいって思ったからかもしれない。元希が壊れやすいから、あたしが壊れるからかもしれない」
「先輩、意味が分かりません」

 
 視線をまたオレに戻す。先輩は、自信に満ちた目をしていた。


「分からないよね。だって、あたしにも分からないもの。でもね、付き合うのに理由っていらないと思うの。あたしは元希が好きだし、元希はあたしを必要としている。それに、あたしも元希が必要。お互いがお互いを必要としていれば、理由なんていらないもの」


それにね、と軽く笑いながら付け加える。


「実際は、理由が多すぎるだけなのよ。あたしが元希を必要とする理由、元希があたしを必要とする理由。ありすぎて、何で付き合ってるかなんて、答えられないわ」


 瞬間、オレは悟った。先輩は、本当に元希さんを好きなんだ、と。オレが先輩を好きで好きでたまらないように、先輩も元希さんが好きで好きでたまらないんだ。


「敵うわけ、ないですよね」


 オレの言葉に、先輩は小さく首を傾ける。それにオレは「何でもないです」と言っておく。

 先輩には、ずっと笑っていて欲しい。
「もっと幸せそうに、心から笑って欲しい」
 これがオレの小さな願いだった。でも、今の先輩はとても幸せそうに笑っている。オレの願いは、もう必要ないんだ。


「先輩。好きです」


 オレの突然の言葉。目を丸くする先輩だけど、すぐに最高の笑顔を見せてくれた。


「有難う」


 その笑顔は、ずっと忘れない。



・・・・すみません。あまりにおお振りが私の中で少しずつフィーバーしていく為、ここに少しでも萌えを吐き出しておきます。
阿部君が中学生の時のお話です。テーマは暖かい初恋、です。
 悲恋。私・・結構こういう暖かな悲恋は好きかもしれません。

題名は、中途半端な言葉さんからお借りしました。

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